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未来の消費者: Life in 2035:2035年、商品との最初の接触が、商品の選び方そのものを決める「比較する」前に方向づけられる購買行動
未来の消費者: Life in 2035:2035年、商品との最初の接触が、商品の選び方そのものを決める「比較する」前に方向づけられる購買行動
― 選択肢を見比べる購買から、「最初に得た基準」を確かめる購買へ ―
2035年のある朝。洗面台の鏡に映る身支度情報の横に、今の肌状態に合う日焼け止め候補がひとつ表示される。通勤途中の駅では、別ブランドの広告が流れ、昼休みにECを開けば、似た商品が何十点も並んでいる。けれど、生活者の頭の中では、朝に見た商品がすでに「自分向けの日焼け止め」の基準になっている。
その後に見た商品は、ゼロから評価しない。「朝の商品より刺激が少ないか」「価格差がリーズナブルか」「自分の生活に本当に合うか」。比較はしていても、その比較の出発点は、最初の接触によって決まっている。最終的に別の商品を選ぶ場合でさえ、最初の商品がつくった評価軸からは逃れにくい。
第1回では、未来の消費者が所有に縛られず、生活を編集するようになる姿を描きました。第2回では、購買の起点が検索から偶然の出会いへ広がる未来を考えました。
第3回で描くのは、その先です。商品との出会いが増え、選択肢が無限に広がった結果、生活者はすべてを比較するのではなく、最初の接触で得た基準を使って、その後の選択を効率化するようになる。2035年の買い物は、「多くを見て選ぶ行為」から、「最初にできた基準が妥当かを確かめる行為」へ変わっているかもしれません。
この未来像は、単なる思いつきではありません。情報量が増えるほど理解や比較が難しくなること、提示順が記憶や選好形成に影響すること、上位に置かれた商品が探索や購買を左右すること、購買前の行動データに選択の形成過程が表れること。これまでの研究で示されてきた複数の知見を重ねると、2035年には「最初の接触が、購入候補だけでなく、何を良い商品とみなすかまで決める」社会が見えてきます。
2035年、商品比較を始める前に、商品選択が半ば終わっているかも?
現在の買い物は、検索して、候補を並べ、価格や機能を見比べ、最後に一つを選ぶという前提で語られます。しかし前回コラムで示したように、2035年には、この順序そのものが崩れている可能性があります。生活者が明確に「買おう」と思う前から、商品との接触が始まり、その最初の接触が、後の検討条件を先に決めてしまうからです。
健康データ、移動、家族予定、過去の購買、SNS上の関心、店頭での行動。生活の中で生まれるシグナルをもとに、商品は検索窓の外から現れます。今回のコラムで重視したいのは、誰が候補を提示するかではありません。生活者が購買を意識する前に、最初の商品が「このカテゴリでは何を見るべきか」を教えてしまう世界観です。
たとえば、最初に触れた洗剤が「洗浄力」ではなく「すすぎ回数」を強調していれば、その後の比較軸は節水や家事時間に寄っていく。最初に見た旅行商品が「観光地の数」ではなく「疲れを残さない移動」を訴えていれば、別の商品も快適性で評価される。最初の接触は、商品の印象だけでなく、カテゴリーそのものの見方をつくります。
2035年の生活者も、商品を比較をしないわけではありません。比較の前提を一からつくることをしないだけです。最初に得た枠組みを仮置きし、後から来る情報がその枠組みに合うか、修正すべきかを確認する。買い物は、探索型から基準確認型へ移っていくのです。
「最初に見た商品」が、商品カテゴリーの意味や定義を規定する
最初に提示された情報が残りやすいことや、提示順によって選好が変化することは、これまでさまざまな場面で確認されてきました。これが2035年の情報管理が高度化された購買環境と結びつくと、初頭効果は単なる記憶の偏りではなく、市場を形づくる力になります。
最初の商品が「高性能な低価格」というインパクトを与える訴求であれば、後続商品は価格とのバランスで見られる。最初の商品が「環境負荷の低さ」を前面に出せば、環境配慮がそのカテゴリの当然の評価項目になる。最初の商品が「使わない期間は停止できる」と示せば、柔軟性が契約サービスの標準になる。
つまり、最初に接触するブランドは、自社を売り込むだけでなく、そのカテゴリにおける「普通」「安心」「賢い選択」の定義に参加することになります。2035年の競争は、商品の優劣を競うだけではありません。生活者が比較を始める前に、比較のルールを誰が提示するかを競うものになるのです。 このとき、知名度の高いブランドだけが有利とは限りません。新しい生活課題を、生活者が初めて理解できる言葉にしたブランドは、その課題領域の基準になり得ます。未来の市場では、カテゴリを代表する企業よりも、カテゴリの見方を最初に言語化した企業が強くなる可能性があります。
買い物の概念は「探索」から「仮説の検証」に変化
2035年の購買行動では、生活者が最初に得るのは商品候補ではなく、「自分にはこれが必要かもしれない」という仮説です。その仮説をつくるのが、最初の接触です。
その後の検索、口コミ閲覧、店頭確認、友人への相談は、白紙の状態から商品を評価・探索するためではありません。最初の仮説が正しいかを確かめるために行われます。「本当に自分向けか」「他にもっとよいものがあるか」「見落としている不利益はないか」。生活者は探索者というより、最初に受け取った仮説の検証者になります。
この変化によって、比較サイトやレビューの役割も変わります。選択肢を増やす場所ではなく、最初の印象を検証し、必要なら覆す場所になる。店頭も、未知の商品と出会う場所だけでなく、デジタル上でできた仮説を身体感覚で確かめる場所になるでしょう。 高関与商品ほど、この傾向は強まります。住宅、保険、教育、医療関連サービス、旅行、耐久消費財。失敗したくない商品では、最初の接触で方向づけられた後、複数の接点を回って確証を集めます。見た接点の数は増えても、検討の中心は最初の仮説から大きく動かない。2035年の「よく比較した買い物」は、実は「最初の仮説を何度も確認した買い物」になっているかもしれません。
最後の接点は、最初の基準を覆す「再判定装置」になる
最初の接触が強くなる一方で、最後の接触も重要になります。購入直前に見た情報が残りやすく、判断を更新することもあるからです。2035年の購買は、最初の接点が方向を決め、最後の接点が最終承認を与える二段構造になります。
最初の接触で「自分向けだ」と感じても、購入画面で解約条件が分かりにくければ、その印象は覆る。SNSで好感を持っても、店頭で説明が一貫していなければ信頼は崩れる。反対に、最初は候補外だった商品でも、最後に明確な比較理由や安心材料が示されれば、逆転することがあります。
企業にとって重要なのは、最初を取ることだけではありません。最初につくった期待と、最後に提示する事実を一致させることです。最初の接触が期待をつくり、最後の接触がその期待を保証する。この連続性がなければ、ファーストタッチ優位はむしろ失望を拡大します。 2035年のブランド体験は、接点ごとの最適化では足りません。最初に何を約束し、途中で何を確認させ、最後に何を保証するか。購買導線全体を一つの判断プロセスとして設計する必要があります。
「上位表示」の価値は、露出ではなく市場のものさしを握ること
検索結果や商品一覧の上位に置かれることは、これまでもクリックや購入の可能性を高めてきました。2035年には、その価値がさらに変質します。上位の商品は見られやすいだけでなく、後続商品を評価する基準として使われるからです。
ランキングの1位にある商品が価格重視なら、カテゴリ全体が価格で見られる。最初の動画が体験価値を伝えれば、その後の商品は体験の豊かさで見られる。生活者は表示順位を意識していなくても、先に触れた情報を起点に判断を組み立てます。
その結果、2035年のリテールメディア、検索、SNS、店頭サイネージでは、「最初に何を見せるか」が市場形成の問題になります。短期の購入率を最大化する商品だけを先頭に置けば、生活者の比較軸が偏り、カテゴリの価値が安売りや刺激の強さに収れんするかもしれません。 プラットフォームや小売企業には、先頭の商品が市場の理解をどう形づくるかを考える責任が生まれます。多様性、透明性、広告表示、推薦理由。表示順はUIの問題ではなく、生活者の判断環境をつくる社会的な設計になります。
2035年、ブランドは「買う理由」より先に「見るべき理由」をつくる
最初の接触が比較基準をつくる社会では、商品の魅力を大量に伝えるだけでは足りません。必要なのは、「このカテゴリで、まず何を見るべきか」を短く、明確に示すことです。
食品なら、味や価格の前にどの安心基準を見るべきか。金融サービスなら、利率だけでなくどの条件を確認すべきか。家電なら、機能数ではなく生活のどの負担が減るのか。最初の接触で評価軸を提示できれば、そのブランドは後の比較に残り続けます。
これは、強い言葉で誘導することとは違います。むしろ、生活者が後から検証できる基準を提示することです。根拠が確認でき、他社とも比較でき、選ばない場合の判断にも使える。自社にだけ有利な基準ではなく、生活者の意思決定をよくする基準をつくるブランドほど、長期的に信頼されます。
2035年のマーケティングでは、広告の役割も変わります。認知を取るための一方的なメッセージではなく、その後の購買行動を方向づける「最初のポイント」を知らせるものになるでしょう。「この商品を買ってください」ではなく、「あなた向けの商品として、まずここを確認してください」。このポイントを先に提示したブランドが、比較の場に残ります。
調査すべきは「何を買ったか」ではなく「最初に何を基準にしたか」
この未来に備えるには、マーケターが見るデータも変わります。購入率、コンバージョン、最終接触広告だけでは、選択がどこで方向づけられたかは分かりません。
必要になるのは、購買前の連続した行動です。最初に触れた商品、最初に理解した特徴、最初に生まれた期待、その後に見た候補、比較項目、戻った商品、最後に判断を変えた情報。これらをつなげて見ることで、生活者の中に「比較のものさし」がいつ、どの接点で生まれたかを捉えられます。
市場調査でも、「最初に見た商品を覚えているか」だけでは不十分です。「最初の商品を見て、何を重視すべきだと思ったか」「その後の比較項目は何だったか」「最初の印象はどこで強化・修正されたか」を聞く必要があります。行動ログと意識データを組み合わせれば、ファーストタッチが単なる露出だったのか、判断基準をつくったのかを区別できます。
2035年のマーケティングリサーチは、選択結果を説明するだけでなく、選択の前提が形成される瞬間を捉える仕事になります。誰が買ったかではなく、誰がどの基準を先に受け取り、その基準がどのように更新されたか。そこに、未来の購買行動を理解する鍵があります。
未来の購買生活で、企業が設計すべき3つのこと
第一は、「最初に何を理解してほしいか」を一つに絞ることです。最初の接触で情報を詰め込みすぎると、基準は生まれません。商品名より先に、その商品を評価するための一つの観点を残す必要があります。
第二は、最初の接触と後続接点をつなぐことです。SNS、検索、EC、店頭、カスタマーサポートで説明が変われば、最初の仮説は疑念に変わります。どの接点でも同じ言葉を繰り返すのではなく、最初の理解を次の接点で深められる構造が必要です。
第三は、最初の基準を生活者自身が再検証できるようにすることです。比較表、根拠、レビュー、試用、返品、解約条件。選ばせるための情報ではなく、選択を見直すための情報を用意する。最初に方向づけても、最後の判断は生活者に返すことが、信頼の条件になります。
この三つを実現する企業は、単に最初に見られるブランドではありません。生活者が自分の判断を組み立てるときの、信頼できる起点になります。
「選ばれるブランド」から「選び方をつくるブランド」へ
2035年、生活者が接触する商品や情報は、今よりはるかに多くなります。しかし、比較に使える時間と注意力は増えません。選択肢が増えるほど、最初に得た基準を使って判断を省力化することが、日常的な適応になります。
買い物は、すべての候補を見渡して最適解を探す行為ではなくなります。最初の接触で「自分には何が必要か」という仮説を持ち、その後の接点で確かめ、最後に承認する。探索、比較、決定という直線的なプロセスは、方向づけ、検証、再判定というプロセスに変わっていくでしょう。
このとき強いブランドは、最後に選ばれるブランドだけではありません。生活者がカテゴリを理解し、自分なりの選び方をつくる最初の瞬間に、信頼できる基準を渡せるブランドです。 第1回で描いた「生活を編集する消費者」、第2回で描いた「偶然の出会いから始まる購買」。その先にある2035年の消費生活では、出会いの順番が、選択の仕方そのものを形づくります。マーケティングの競争は、商品を選ばせる競争から、生活者の「選び方」をよりよく設計する競争へ移っていくのではないでしょうか。
参考文献
・多田伶・勝又壮太郎(2020)「消費者の知覚混乱度と購買後評価の関係性――情報処理プロセスに注目した実証的検討」『行動計量学』47(2), 111-121.
・ Zhu, Z., Peng, N., Niu, Y., Wang, H., & Xue, C. (2021). The Influence of Commodity Presentation Mode on Online Shopping Decision Preference Induced by the Serial Position Effect. Applied Sciences, 11(20), 9671.
・Ursu, R. M. (2018). The Power of Rankings: Quantifying the Effect of Rankings on Online Consumer Search and Purchase Decisions. SSRN.
・Honka, E., Seiler, S., & Ursu, R. (2024). Consumer search: What can we learn from pre-purchase data? Journal of Retailing, 100, 114-129.
・Canic, E., & Pachur, T. (2014). Serial-position effects in preference construction: a sensitivity analysis of the pairwise-competition model. Frontiers in Psychology, 5, 902.
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