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新連載: Life in 2035:2035年、消費者は「購買者」から「生活編集者」になる

新連載: Life in 2035
2035年、消費者は「購買者」から「生活編集者」になる

― 所有から利用へ、その先で問われるマーケティングの転換 ―

「最近、あまりモノを買わなくなったな」と感じることはありませんか。

音楽は配信で聴き、映画はサブスクで観る。車は持たずにカーシェア、服もサブスク、家具や家電はレンタルやシェア。気づけば、生活のあちこちに「買わずに使う」選択肢が入り込んでいます。

かつて消費とは「買って、所有すること」でした。所有が、豊かさや自己表現と結びついていたのです。でも今の生活者は、所有をゴールにしていません。「今の自分に合うか」「必要な期間だけ使えるか」「試しながら選べるか」で消費を選び始めています。

これは単なる節約でも、若者の所有離れでもありません。価値観そのものの変化です。

結論から言えば、2035年の消費者は「商品を買う人」ではなく、自分の生活をその時々で組み替える「生活の編集者」になっていきます。 そして、その前提を持たないマーケティングは、静かに、でも確実に生活者から遠ざかっていくでしょう。

「所有か、利用か」の二択では足りない

昨今のサブスクやレンタル、シェアの利用潮流を象徴する言葉に「所有から利用へ」という表現があります。わかりやすい言葉ですが、「所有」か「利用」かの二択で捉えると見誤ります。

生活者はすべてを手放すわけではありません。思い入れのある服、長く使いたい家具、家族の記憶と結びついたもの。こうしたものはむしろ「所有する意味」が見直されます。 一方、たまにしか使わないもの、短期間だけ必要なもの、合うかわからないもの、すぐ古くなるものは、買わずに利用するほうが合理的です。つまり未来の消費者は、こう考えるようになります。

これは持つべきか。借りればよいか。共有で十分か。サブスクで更新し続けるほうがよいか。
AIに任せるか。

ここで大事なのは、意思決定の単位が「商品」から「生活全体」へ移ることです。従来のマーケティングは「この商品をどう買ってもらうか」を中心に組み立ててきました。でも、「買わずに利用」が広がる社会では、購買はゴールではありません。契約後・利用中・継続・解約前の体験こそが、ブランドとの関係を決めます。「買ってもらう」から「使い続けてもらう」、さらに「生活の中で意味を持ち続ける」へ。
これが企業が直面している大きなテーマなのです。

サブスクは「安く使う仕組み」ではなく「生活を試す仕組み」

サブスクと聞くと「定額・お得・使い放題」を思い浮かべがちですが、本質は別にあります。サブスクの価値は、いろいろ試して、自分に合うものを見つけ、必要に応じて入れ替えられることです。

ここで起きているのは「失敗コストの低下」です。これまで購入には、買ったのに使わない・思っていたのと違う・捨てるのが面倒、といったリスクがありました。高額商品ほどリスクは大きい。でもサブスクやレンタルなら、合わなければ変えられるし、いらなくなればやめられる。

この柔軟さが行動を変えます。慎重に選んでから買うのではなく、使いながら選ぶ。 だから意思決定は「購入前」では終わりません。使い始めた後に「生活が少し便利になった、楽しくなった」と感じられるか。企業が売っているのはもはや商品単体ではなく、生活が変わる可能性なのです。

2035年の消費者は「生活ポートフォリオ」を管理する

少し未来を想像してみましょう。

食材は健康状態や予定に合わせて届き、日用品は切れる前に自動補充。移動はその日の目的に合わせて選び、普段着は少数所有・イベント用はレンタル。動画・音楽・学習・医療相談・保険・通信は、複数の契約をAIが整理し、見直しを提案してくれる――。

このとき生活者が管理しているのは個別の商品ではなく、生活全体を構成するサービスの組み合わせ=「生活ポートフォリオ」です。どこは所有し、どこはサブスクにし、どこを共有で済ませ、どこはAIに任せるか。これはライフステージや仕事、家族構成、健康状態で常に変わっていきます。

だから、年代・性別・世帯年収だけで消費者を捉えるのは難しくなります。 同じ40代でも所有志向の人と徹底サブスク派がいて、同じ子育て世帯でも教育に投資する人と趣味に惜しまない人がいる。 これからのマーケティングに必要なのは、属性ではなく「生活の組み立て方」を見ることです。何を買ったかだけでなく、何を所有し、借り、共有し、やめ、任せ、何に不安を感じているのか。そこまで見ないと、未来の消費者は見えてきません。

「買って終わり」のマーケティングは、静かに効かなくなる

サブスクやレンタルでは、契約や利用開始は関係の始まりにすぎません。契約しても使われなければ意味がなく、使われても価値を感じてもらえなければ続きません。

だから主戦場は「売る前」から「使われている間」へ移ります。問うべきはこんなことです。

  • 顧客は本当に使えているか。頻度は増えているか、減っているか。
  • どの瞬間に価値を感じ、どの瞬間に面倒だと感じているか。
  • 続けている理由は満足か、それとも惰性か。
  • 解約の兆しはどこに出ているか。

注意したいのは、継続率が高い=成功とは限らないことです。解約しづらい、ボタンが見つからない――そんな仕組みで数字を守っても、長期的には信頼を失います。すでに「サブスク疲れ」「通知疲れ」は広がっており、2035年の生活者は、自分の時間と注意を奪うサービスに今より厳しくなるでしょう。 契約を増やすことを目標にしないこと。顧客の生活を本当に軽くしているか、納得して続けられる関係をつくれているか。 ここが分かれ目です。

今、マーケターが見直したい5つのこと

  1. 購買ファネル中心の発想を見直す。 認知→興味→比較→購入は今後も大事ですが、契約後・利用中・休止・解約・再利用という「循環型」の行動が増えます。設計も直線型から循環型へ。
  2. 満足を「商品満足」だけで測らない。 使いやすさ、選びやすさ、やめやすさ、生活へのなじみ方が満足を左右します。市場調査でも、利用後の心理や生活変化を捉えることが大切です。
  3. 属性だけで切らない。 「誰か」より「どんな生活を組み立てているか」。所有志向か利用志向か、安心重視か柔軟性重視か。生活文脈がセグメンテーションの鍵になります。
  4. 解約をネガティブに捉えすぎない。 休止や解約は自然な行動です。大事なのは「させないこと」ではなく「また戻りたいと思える関係」をつくること。
  5. データを「売るため」だけに使わない。 負担を減らす、使い忘れを防ぐ、無駄な契約を見直す――「自分のために使われている」と感じてもらえるかが信頼を左右します。

2035年の消費は「軽く、柔らかく、しかし慎重」になる

一言でまとめるなら、未来の消費は「軽く、フレキシブルで、しかし慎重」です。

  • 軽い…所有の重さ(保管・管理・廃棄)から解放され、必要なときに必要なものを使う
  • フレキシブル…働き方や家族構成の変化に合わせ、生活を編集し直す
  • 慎重…便利だからと飛びつかず、契約・データ・価格・信頼性を見て選ぶ

未来の消費者は、買わないわけではありません。意味のあるものにはちゃんとお金を払います。でも、企業の都合で売り込まれることには敏感です。

「買ってください」ではなく、「あなたの生活にこう役立ちます」と言えるか。

「ずっと契約してください」ではなく、「必要なときに、納得して使ってください」と言えるか。

「解約されない仕組み」ではなく、「また戻ってきたくなる関係」をつくれるか。

2035年は遠い未来ではありません。生活者の小さな違和感、契約への疲れ、所有への迷い――その一つひとつに、未来の兆しはすでに現れています。売り方を変えるだけでなく、生活者との関係そのものを設計し直すこと。 その変化に寄り添える企業だけが、これからも選ばれ続けるでしょう。


参考文献

大山翔平・髙橋広行・財津涼子 (2021)「ライフスタイルを彩る“非所有消費”の研究 ― サブスクがもたらす消費者の態度変容についての考察 ―」
谷守正行 (2023) 「サブスクリプションサービスの概要と購買行動の変化」
Bardhi, F. and Eckhardt, G. M. (2017), “Liquid Consumption”
Bardhi, F. and Eckhardt, G. M. (2012), “Access-Based Consumption: The Case of Car Sharing”
Sakao, T. and Neramballi, A. (2020). “A Product/Service System Design Schema: Application to Big Data Analytics.” Sustainability.
Sheil et al. (2023), “Staying at the Roach Motel: Cross-Country Analysis of Manipulative Subscription and Cancellation Flows”
・Davenport, Guha, Grewal and Bressgott  (2020) “How Artificial Intelligence Will Change the Future of Marketing”


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